神奈川大学日本常民文化研究所

講座と展示

第29回 常民文化研究講座 終了報告

創立100周年記念事業 日本常民文化研究所の100年
「写真アーカイブがつなぐコミュニティ」

  Photo Archives Connecting Communities

日時:2025年12月6日(土)13:00~17:15
会場:神奈川大学横浜キャンパス3号館 305講堂 Zoom同時開催

  • 会場の様子
  • 総合討論
  • 写真資料を展示
  • 登壇者との記念写真

 2025年12月6日(土)、「写真アーカイブがつなぐコミュニティ」と題する第29回常民文化研究講座を対面、オンライン併用で開催した。日本常民文化研究所創立100周年事業の最後を飾るイベントでもあった。来場参加者52名、オンラインZoom参加者97名、計149名の多くの方に申込み登録いただいた。
 特に対面の会場では、それぞれの写真アーカイブに関する資料と著書を展示し、来場者に実際に手にとって見てもらえるように工夫をこらした。
 今回の講座の特徴は、それぞれ写真アーカイブの実践と理念の立ち上げに具体的に関わってこられた登壇者の方々に講演と報告をしていただいたことにある。アーカイブ実践において、写真を撮る側、撮られる側、アーカイブ化する側、見る側それぞれの人々が過去の記録とどのように向き合い、共有し、相互の関係性をいかに生み出しているのか、写真のアーカイブ化がつなぐコミュニティの可能性について探る機会となった。
 基調講演と具体的な写真アーカイブ化の実践を踏まえた4つの報告から構成された本講座の内容を簡単に振り返りたい。
まず、吉田憲司氏(国立民族学博物館名誉教授)による基調講演「写真アーカイブズの共有を通じたコミュニティとの協働──フォーラム型情報プロジェクトの経験から」は、国立民族学博物館のフォーラム型情報プロジェクト、DiPLASの実践例とその理念を具体的な活動を踏まえて論じられた。
 続く報告1の貴志俊彦氏(ノートルダム清心女子大学、京都大学名誉教授)は、京都大学を中心として数多くの写真アーカイブに携わってこられた経験から、歴史の記録者としての経験を縦横に論じ、共有と連携における「見られる写真」から「読み解く写真」への転換の重要性を論じられた。報告2の吉田律人氏(横浜都市発展記念館)は、地元である金港(横浜)の写真師 前川謙三が撮影した関東大震災時の写真について紹介し、地域コミュニティとの関係においても撮影する主体に注目することの重要性を論じられた。報告3の原田健一氏(新潟大学)は、コミュニティの日常生活をベースとする「にいがた地域映像アーカイブデータベース」を長く主導されてきた経験を論じ、新たな方法として写真を組み合わせるという映像制作の可能性も提起された。報告4の佐藤知久氏(京都市立芸術大学)は、せんだいメディアテークの「3がつ11にちをわすれないためにセンター」と京都市立芸術大学での実践例をあわせて「創造のための/としてのコミュニティ・アーカイビング」というタイトルで論じ、アーカイブ実践が記録の公開と共有の工夫によって、創造的な読解の可能性とコミュニティ形成に結びつきえることを指摘された。
 総合討論では、「奥能登アエノコト」に関する著書でも「民俗写真」に焦点をあてた菊地暁氏(京都大学)にコメントをいただき、今後の可能性についても登壇者から論じていただいた。
 今回の講座を通じて、写真アーカイブ実践は、過去の記録と記憶に関わることである一方で、かつて撮影された写真を現在において共というコモンに開き、共に見て読み解き続けるということによって、新たな未来のもうひとつの可能性にもつながり得ることが展望されたと言えるだろう。

(文責:高城 玲)