第21回 常民文化研究講座「古文書修復実習」終了報告
日程:2018年3月11日(日)~3月12日(月)
会場:日本常民文化研究所 古文書修復室(神奈川大学横浜キャンパス3号館地下2階)
講師:田上繁(所員)、関口博巨、白水智(客員研究員)
山口悟史(東京大学史料編纂所技術職員)
去る2018年3月11日・12日の日程で、第21回常民文化研究講座の古文書修復実習が開催された。例年とほぼ同数の40名ほどの応募者があり、定員の20名を選定して参加していただいた。今回の実習も、昨年度に引き続き、基本的な①記録・解体→ ②修理(繕い・裏打ち)→ ③復原(化粧裁ち)の3工程に加え、④襖や屛風など下張り文書の剝離技術の習得も内容に盛り込んだ。
ところで、古文書修復の近年の動向として、各工程で当初行っていた内容や受講目的とは大きく異なる部分があらわれてきた。例えば、①の行程では、記録の部分が重視され、参加者が日常的に各種文書を目録化する機会があり、そのノウハウの習得が重要な要素となってきている。②では、裏から全体に和紙を張って補強する従来の主体的な修理方法に代わり、虫損や破損の部分に和紙をその形にちぎって裏から部分的に補強する繕いの方法が多く取り入れられるようになった。③では、製本技術の習得に対する関心が強くなり、簡単な製本から複雑な製本までその技術を自ら身につけようとする意識が高まってきた。④については、本実習で行うようになったのは4 、5 年前からであるが、従来は文書が裁断されているという理由で等閑視されていた襖下張り文書が、歴史研究で重要な史料となり得ることが分かって重視されるようになった。常民研の奥能登研究において、今までの通説を覆す「百姓は農民ではない」という新説も、襖下張り文書の記載内容から生まれたものであった。そのようなことを反映して、襖下張り文書の剝離作業に関心が向けられ、剝離作業の重要性が増しつつある。こうした社会的な動向と受講者のニーズに応じて、今後も実習内容を検討していく必要があろう。
今回の受講者の職業も例年と同じように、好事家的な方は皆無で、そのほとんどが資料保存機関に勤務する学芸員や日常的に資料と向き合う専門員の方々であった。2日間の実習ですべての修復技術を習得するのは不可能なことは言及するまでもない。それでも、受講者の多くは、修復技術の実務を経験されることで、外注先との打ち合わせに大いに役立つことを異口同音に述べられていた。
また、1日目の実習を終えて開く懇親会も、受講者に大変好評である。全国各地から参加される受講者同士が、日常的に抱えている資料整理業務の諸問題を他機関の方と膝を交えて意見交換できる場は貴重なようである。
最後に、今回の修復実習で使用した襖下張り文書は、寒川文書館から提供していただいたものである。所蔵者ならびに関係者各位に改めてお礼を申し上げたい。また、この実習を開催するには講師だけではできず、歴史民俗資料学研究科の院生のアシストがあってはじめて可能となるものである。お手伝いをいただいた院生に心より感謝の意を表したい。
(文責:田上繁)