神奈川大学日本常民文化研究所

講座と展示

第22回 常民文化研究講座「古文書修復実習」終了報告

日程:2019年3⽉10⽇(⽇)~ 3⽉11⽇(⽉)
会場:⽇本常⺠⽂化研究所 古⽂書修復室(神奈川⼤学横浜キャンパス3 号館地下2階)
講師:関⼝博巨(所員・大学院歴史⺠俗資料学研究科准教授)
   ⽥上繁(客員研究員・本学名誉教授)
   ⽩⽔智(客員研究員・中央学院⼤学教授)
   ⼭⼝悟史(客員研究員・東京⼤学史料編纂所技術専⾨職員)

  • 記録/古文書の撮影方法の実習
  • 修理/裏打ち。和紙を裏から張る補強
  • 修理/繕い。欠損部分を補修。紙で裏から埋める
  • 剝離/襖の下張り文書を剝離

 2019 年3 ⽉10 ⽇(⽇)・ 11 ⽇(⽉)の日程で、第22 回 となった常民文化研究講座「古⽂書修復実習」を開催した。応募者が定員を大きく超過したため、抽選によって受講者20名を決定した。
 今回の実習では、例年のとおり、修復の基本となる ① 記録・解体 → ② 修理(繕い・裏打ち) → ③ 復元(化粧裁ち・製本)の3⼯程と、これに加えて④ 襖や屏⾵などの下張り⽂書の剥離作業を盛り込んだ。受講者は5名ずつ4つのグループに分かれ、以上の4つの⼯程の技術内容を、それぞれ半⽇ずつ実習した。
 「① 記録・解体」部門は、修復前の古⽂書の⼨法や傷み具合などを記録し、②の作業に備えて古⽂書を展開・解体する⼯程である。この部門では、あわせて古⽂書の調査・整理・保存(現状記録や⽬録データベース化など)、そして⽂化財レスキューの⽅法についても説明・提案し、その実践的な内容が好評であった。
 「② 修理」部門は、繕いや裏打ちなどの技術をつかって、傷んだ古⽂書を補修・補強する工程である。もっとも古⽂書修復らしい体験ができる⼯程だが、受講者は和紙・正麩糊・刷⽑などの材料や道具の取り扱いに苦労しておられた。
 「③ 復元(化粧裁ち・製本)」部門は、裏打ちの和紙部分を整え(化粧裁ち)、製本の仕⽴て直しをして、もとの形にもどす工程である。製本に必要な「こより」作りの技術は、史料取り扱い機関での業務や、古⽂書調査の際にも役⽴つことから、皆さん熱心に練習され、全日程終了までに技術をマスターした方も多数おられた。
 「④ 剥離」部門では、下張り⽂書の剥離技術を体験していただいた。古い襖や屏⾵には古⽂書が下張りされており、近年その史料的価値が⾒直されている。とはいえ、各地の史料所蔵機関でも、その取り扱いには難渋しており、参加者の皆さんは剥離の手順や技術を熱心に吸収しておられた。
 今回の受講者も例年同様、その多くが学芸員・文化財担当者・図書館司書など、日常的に歴史史料と向き合っておられる方々であった。この実習での経験は、日ごろの業務や外注先との打ち合わせに大いに役立つと、参加者の皆さんは異口同音に述べておられた。またこの講座は、全国各地から参加される受講者同士が、実習や懇親会を通じて知り合い、それぞれが抱えている業務上の課題などについて意見交換できる場ともなっている。今後は、こうした関係が一時的なものに終わらぬよう、受講者の皆さんを結びつけるネットワークづくりをしていくことが必要であろう。
 最後ではあるが、この実習を準備・開催するためには、歴史民俗資料学研究科の大学院生アシスタントの存在が不可欠である。彼らの膨大な量の作業と気遣いなしに、実習を円滑に進めることはできない。お手伝いをいただいた大学院生の皆さんに心より感謝の意を表したい。

(文責:関口博巨)