神奈川大学日本常民文化研究所

講座と展示

第23回 常民文化研究講座 民具を語る 5 終了報告

「実践民俗学提唱50年を振り返って—民俗資料回想セラピーの取り組み—」
 隅田正三氏(西中国山地民具を守る会 会長)
「金城民俗資料館所蔵の紙布と紙漉き道具—他に類を見ない紙民具の量と質—」
 北村春香氏(浜田市金城民俗資料館 非常勤講師)

日時:2019年10月7日(月)13:30~16:00
会場:神奈川大学横浜キャンパス9号館911室(日本常民文化研究所) 

  • 隅田正三氏
  • 北村春香氏
  • 紙布(しふ)の材料
  • 和紙を細く裂いて紙縒(こより)にし、つなぎ合わせて紙糸を作る
研究会風景

 第5回「民具を語る」が2019年10月7日(月)、島根県浜田市金城町波佐の金城民俗資料館を拠点に長年、民俗・民具の調査、研究に従事され、2018年に創立50周年を迎えた「西中国山地民具を守る会」会長の隅田正三氏、同館の非常勤研究員である北村春香氏を迎え、それぞれ「実践民俗学提唱50年を振り返って—民俗資料回想セラピーの取り組み—」、「金城民俗資料館所蔵の紙布と紙漉き道具—他に類を見ない紙民具の量と質—」と題して報告がなされた。なお、隅田正三氏は『民具マンスリー』本誌の「民具に出会う」52巻-2(2019. 5)に登場している。
 民具を含め民俗研究の目的は、現在を生きる地域住民が自らの手で「郷土」の来し方、過去を知り、未来に活かす方向性を探ることにあるが、具体的な実践にはなかなか結び付かない中、地元の郵便局長でもあった隅田氏は有志とともに守る会を立ち上げ、高度成長期、見捨てられ置き去りにされていった民具を「一家一点提供運動」で収集し、「子々孫々まで大切に残す」と記録・整理し、保存する民俗資料館を設立した。また、収集した民具を死蔵することなく、実際の使用を試み、古老たちに協力してもらい当地方の花田植の農作業を復元、学校児童も参加するなど民俗の伝承や回想の機会として民具の活用を志向してきた。村人への聞き取り調査、文献資料に基づき忠実な実践により再現することを基本理念とする活動は、民俗学の学問的目的と実践的目的をまさに併せ持つ。
 住民主体の活動の結果、金城民俗資料館には国の重要有形民俗文化財指定・波佐の山村生産用具758 点、県指定の山村生活用具221点を含む約3,500点の民具が収蔵・展示され、中でも江戸期の紙漉き用具は他に類を見ない希少なものである。早く1971年12月から1972年2月には旧製法により「紙漉き」が再現され記録作成されたが、北村氏は、当地の紙漉き用具を中心にその製法と道具の特徴を旧津和野藩領地としての背景なども含め丁寧に説明してくれた。
 近接する歴史民俗資料館には、貴重なたたら製鉄関連資料、島村抱月関係資料、明治期にチベット入境を試みた僧侶、能海寛の資料も収蔵されている。2018年11月11日の守る会50周年記念に講師として招かれた折、波佐小学校全児童による劇「能海寛と夢」を参観した。上演後、子供たちが保育士など将来地元で働きたいとの感想を聞き涙する父兄もおり、資料提供などで協力した守る会の地域に根差した日頃の活動ぶりが伺えた。地域創生が叫ばれる今日、山陰の山村での住民主体の実践民俗学の活動に注目していただき、民具の有効な活用例として是非参考に供してしてもらいたいと思った次第である。

【参考】「西中国山地民具を守る会」波佐ネット
http://hazaway.com/culture/mingu-mamorukai/

(文責:佐野賢治)