神奈川大学日本常民文化研究所

講座と展示

「アイヌ文化を語る」(大塚和義氏)第21回常民文化研究講座 民具を語る3 「アイヌの北方交易と和人社会—アツシ・蝦夷錦・ラッコ皮—」 終了報告

日 時:2017年5月31日(水)午後1時~3時
発表者:大塚和義氏(国立民族学博物館名誉教授・日本常民文化研究所客員研究員)
題 目:「アイヌの北方交易と和人社会—アツシ・蝦夷錦・ラッコ皮-」
会 場:日本常民文化研究所会議室

  • 大塚和義氏
  • 研究会風景
発表の様子

 今回は、長年、アイヌ文化研究を先導されてきた国立民族博物館名誉教授、大塚和義氏を迎えて「アイヌ文化を語る」企画のもとに第Ⅰ部としてアイヌ民族に関係した衣料・衣生活の話を聞いた。最初にアイヌの“民族”概念を「アイヌという固有のDNAはなく、その文化の中で生きればアイヌ民族」であるとユニホームに例えて説かれ、その具体例として、北海道・樺太・千島アイヌの衣料の素材、鮭皮・樹皮・毛皮などの実態を文献から御自身のフィールドワークを含めた豊富な資料がスライドを多用して解説された。引き続いて、ロシアの毛皮商人による収奪、山丹交易における蝦夷錦、北前船によるアツシの流通、浮世絵に描かれたアイヌ模様など、アイヌ民族に関わる衣料がユーラシア大陸のみならずアメリカ北西海岸まで、世界史の動向と絡めて提示され、結びとしてガラス玉、ビーズを事例に民具を指標にしての国際比較の重要性までを指摘された。
 この日は、第Ⅱ部の「アイヌ民族文化研究の歩み-民具研究に対する社会的環境と自身の歩み—」も含めて5時間余にわたり、大塚氏のアイヌ民族文化研究のエッセンスが語られ、学生・院生から研究者まで聴くものにとって、アイヌ文化研究の導入となるだけではなく、文化伝播や今日の民族問題などそれぞれの関心を喚起、深めた先生の熱のこもった語りであり、その余韻はその後の懇親会まで持ち込まれた。       

(文責:佐野賢治)