神奈川大学日本常民文化研究所

調査と研究

基盤共同研究 日本常民文化研究所所蔵資料からみるフィールド・サイエンスの史的展開

「アイヌ文化を語る」(大塚和義氏)第3回 公開研究会「アイヌ民族文化研究の歩み」(2017年5月31日/終了報告)

日程:2017年5月31日(水)
会場:神奈川大学日本常民文化研究所

  • 写真左/知里真志保『分類アイヌ語辞典』(1953年、54年、62年)日本常民文化研究所、同『アイヌ民俗研究資料』(1937年)アチックミューゼアム  
    写真右/大塚和義氏の発表

 大塚和義氏は、文化人類学の研究・教育の中核機関である民族学博物館で創設時よりアイヌ担当であった。同氏の研究歴をたどることは、専門研究者の動向を確認することにとどまらず、日本社会におけるアイヌ文化理解の変遷をも明らかにする。北方漁労民の生態や縄文への興味から北海道へ向かった大塚氏が直面したのは、同化政策により「民族としてのアイヌはすでに滅びた…彼らは、もはやアイヌではなく、せいぜいアイヌ系日本人」という知里真志保の断定であり、また、福祉政策の拡充に専念するアイヌ人組織の文化遺産への無関心であった。大塚氏は専門の物質文化研究を活かしこのような状況の転換を果たす。古物収集ではなく、あえて伝統工芸を復活させ、その作品を博物館収蔵品として展示することで、彼らの文化的自尊心を培養し、民族の自覚を高めつつある現代アイヌの姿を紹介した。「アイヌ民族」というのは国際先住民年(1993)以降に一般化した理解であり、そこに至るまでに、現在とは全く異なる時代状況と切り結ぶ文化人類学者の奮励があったことを痛感した。

(文責:泉水英計)