神奈川大学日本常民文化研究所

調査と研究

共同研究 ブラジル日本人入植地の歴史民俗学的研究

科研費共同研究「ブラジル日本人入植地の歴史民俗学的研究」公開研究会  比較民俗研究会 公開講演会 終了報告

「『日系コロニア』を創造する
—ブラジル南東部における日本人移民の営農戦略とエスニシティ—」
吉村竜氏

日時:2018年4月27日(金)16:00~18:00
会場:横浜キャンパス9号館212演習室
発表者:吉村竜氏(首都大学東京大学院博士後期課程)

  • ピラールの農協の農場見学会
  • 日系農家の従業員の作業の様子
研究会の様子

 吉村氏は2012年より1年間、ブラジル日本交流協会研修留学制度によるサンパウロ州ピラール・ド・スール市の日本語学校での研修の傍ら、日系人の営農戦略に関する調査をおこなった。その後、サンパウロ大学に所属しながら、日系人の農業分野での実践や日系人団体の諸活動に関する長期調査を実施し、本年初めに帰国し、首都大学東京大学院で文化人類学の博士論文を執筆中である。本発表は、長期の調査で得られた未だ新鮮な成果が豊富に提供されることになった。
 吉村氏は、対象地域の概要を紹介したうえで、まず、在伯日本人と日系ブラジル人を包含する「日系人」というカテゴリが、日本ナショナリズムを焦点とする世代間ギャップや、ブラジルの人種主義とナショナリズムへの対抗、あるいはデカセギ体験によって複雑な様相をみせることを論じた。つぎに、そのような日系人カテゴリの複雑な様相を、ピラールの日系組織の自己定義と活動のなかで具体的に示した。後半では、吉村氏は、ピラールの日系農家に焦点を絞り、新自由主義的なグローバル経済の影響下で日系農家が営農の多角化や、生産および作業の効率化、独特な作物の追求によって破綻を回避したことを論じた。ここでは、一方で、農民(peasant)とは異なり資本化された農園の農業経営者(farmer)である日系農家が、他方で農民的価値体系である連帯創出を希求したことが効果的であったという。
※本研究はJSPS科研費15H05172の助成を受けたものです。

(文責:泉水英計)