神奈川大学日本常民文化研究所

調査と研究

基盤共同研究 日本常民文化研究所所蔵の川田順造文書を用いた 西アフリカ史・人類学史に関する基礎的研究

「第3回研究会」

日程:2026年3月19日(木)
会場:日本常民文化研究所
参加者:中尾世治、泉水英計、高城玲、池邉智基、神代ちひろ、平山草太、小綿哲、廣田緑、三津島一樹、余瑋

  • 図1 研究会風景
  • 図2 研究会風景

 2026年3月19日午後に実施した第3回資料調査では、中尾世治、泉水英計、高城玲、池邉智基、神代ちひろ、平山草太、小綿哲、廣田緑、三津島一樹、余瑋が参加し、平山、中尾、池邉が発表をおこなった。今回の研究会では、10代から20代の若い時期の川田順造と1950年代から1960年代初頭の東京大学文化人類学研究室の日本の農村調査に焦点をあて、これまで十分に知られていなかった若き日の川田と戦後の日本の文化人類学の形成過程について議論をおこなった(図1, 2)。

  • 図3 『生活ノート』
  • 図4 『文化人類学一般調査要項』
  • 図5 『梁川ノート』

 まず、平山発表「荒川と利根川のあいだ─川⽥順造『⽣活ノート』における市川とその問題系」では、川田順造が17歳の時に記した全8巻の『生活ノート』(1951年7月〜1952年5月)の分析をおこなった(図3)。その分析では、病気によって高校を中退した川田が、1942年から居住していた市川、アテネ・フランセや東京大学のサンデー・スクールなどの位置する神田川沿いの地域、そして、1951年から通っていた長南の農村の三つの地域で往還しながら生活し、思索を深めていったことを明らかにした。そこでは、川田がのちに、人類学の認識論として提示した、自己同定と自己異化の反復運動、そして、文化の三角測量の原型を見てとることができる。そのうえで、「螺旋形に深まっていく」川田の思考のあり方と、のちに焦点化される深川のアレゴリカルな位置づけ─荒川(隅⽥川)と利根川をつなぐ運河としての⼩名⽊川にこだわった川田の思考─について論じられた。
 つづく中尾発表「川田順造の読み方と「日本文化の地域類型」プロジェクト前史—日本の占領期の人類学史研究と川田研究の架橋」では、冒頭で川田の著作の特徴を述べたのちに、1959年から1962年にかけて東京大学文化人類学研究室で実施された「日本文化の地域類型」プロジェクトの前史にあたる、戦後の泉靖一らによる日本の農村調査の系譜をとりあげた。「日本文化の地域類型」プロジェクトの前史では、常民研・川田資料、東京大学文化人類学研究室資料(以下、東大資料)、および国立民族学博物館「「日本文化の地域類型研究会」アーカイブ」(以下、民博資料)を用いて、泉靖一の理論的転換が戦後の十津川村調査を経て「血縁結合」と「地縁結合」の比較という理論的主題へと転換し、杉浦健一のおこなっていた農村での「総合調査」を引き継ぐかたちで、『文化人類学一般調査要項』の作成と改訂を進め(図4)、文化人類学研究室の院生の実習指導を制度化し、その延長線上に「日本文化の地域類型」プロジェクトが位置づけられることを明らかにした。
 最後の池邉発表「「⽇本⽂化の地域類型研究会」の再検討:理論的背景・⽅法論・運営をめぐって」では、常民研・川田資料、東大資料、民博資料を用いつつ、「日本文化の地域類型研究」プロジェクトの実態を明らかにし、特にプロジェクトの半ばまで運営の実務を担った、当時博士課程の大学院生であった杉山晃一を筆頭として若手研究者に大きな負担があり、教員側が研究の方針を十全に示さないまま、進行していったことを明らかにした。この運営のあり方はのちに、やはり博士課程の大学院生であった長島信弘によって明確に批判され、また1960年代後半の学生運動のなかでも批判される点であり、東大文化人類学研究室の世代間の断絶を捉えるうえで重要である。また、このプロジェクトでは、それ以前から調査がなされていたいくつかの農村での集中的な調査が継続されており、たとえば、川田資料に含まれる『梁川ノート』などの資料から(図5)、刊行されなかった詳細な集団調査の内実と当時の若い世代の学生たちの問題意識を読みとることが可能となることが指摘された。
 今回の研究会では、特定のトピックに関連する川田資料を重点的に読解することで、日本の人類学史研究に新たなかたちでアプローチできるという認識を共有することができた。今回とりあげた「日本文化の地域類型」プロジェクトとその前史については、東大資料、民博資料といった、他のアーカイブスに関連資料があり、相互に補完することで全体像が浮かびあがることが理解された。こうしたことから、内外での資料調査を継続し、川田資料の学術上の意義について、より多角的に理解できるように進めていきたい。

(文責:中尾世治)

※本研究はJSPS科研費課題番号23K25434の助成を受けたものです。