基幹共同研究「常民生活誌に関する総合的研究」—便所の歴史・民俗に関する総合的研究—
2021年度の活動報告-異分野の専門家の知見を束ね、横断的研究を展開
基幹共同研究「便所の歴史・民俗に関する総合的研究」(代表者:須崎文代、共同研究者:泉水英計、周星、角南総一郎、堀充宏、内田青蔵)では、2019年度の設置以来、さまざまな分野・時代を専門とする研究者を招き、全6回の研究会を行ってきた。
なお第6回研究会は2021年3月24日(水)に開催し、堀充宏氏(現 客員研究員、葛飾区郷土と天文の博物館学芸員)による発表が行われた。テーマは「東京近郊農村における下肥利用とトイレの改良」で、糞尿利用と便所の構築を介した都市と近郊農村の関係性の歴史について、具体的なデータや画像をもとにした大変興味深い内容で、参加者から多くの関心が寄せられた。
2021年度はまず第7回にあたる研究会を、客員研究員 元福島県立博物館専門学芸員の佐々木長生氏を招き、2021年8月28日(土)オンラインにて開催した。テーマは「農書にみる便所の構築と民俗—『会津農書』を中心に—」で、『会津農書』(佐瀬与次右衛門著、貞享元(1684)年)に記された「雪隠」・「小便所」にみる会津地方の17世紀後半の便所の構築法やその利用についてご発表いただいた(図1)。続いて第8回は客員研究員 ベトナム デュイ・タン大学外国語学部長 ソウル大学名誉教授 人類学者 全京秀氏の登壇によって、11月12日(金)に同じくオンラインで開催した。テーマは「1930年代の男鹿寒風山麓における畑作農民の人糞尿利用に関する生態人類学的再発見:アチック学派の社会的事実」で、1930年代に秋田県男鹿寒風山の山麓で畑作農業を営んだ吉田三郎の「農業生活日記」における記述からみられる人糞尿の利用について人類学的見地からご発表いただいた(図2)。いずれの研究会も、豊富な文書や図像の解読をもとにした大変貴重なものであった。
また、コロナ禍の自粛によって昨年度から実施できずにいた現地調査をようやく再開することが可能となった。その手始めとして、2021年12月17日(金)~18日(土)には沖縄に現存する豚便所「ふーる」遺構の視察調査を実施した(泉水・須崎)。具体的には、南城市おきなわワールド内に移築されている登録有形文化財旧知念家住宅のふーる、国指定重要文化財中村家住宅のふーる、登録有形文化財新垣家住宅のふーる、南城市船越グスクそばに現存するふーる(図3、おきなわワールド従業員からの情報提供によって知り得た無名の遺構)を対象とした。
旧知念家住宅ふーるについては、調査補助員として同行した大学院生とともに実測調査の試行を行った。沖縄地方のふーるは主として石造であるため、建設以後における石材の風化も見られたが、特徴を把握するための架構や寸法は実測調査によって記録可能な状態であること、使用されている石の積み方や、使用当時に上屋が設けられていたかどうか等については、文献調査や聴き取り調査もふくめて更に時間をかけた調査が必要なことが判明した。
沖縄地方には他の離島にも同様のふーるが現存しており、島ごとの傾向(ふーるの構造や主屋との関係性など)を比較検討することによってさらに特徴を明確化し得るの可能性があると研究者間で検討している。便所の歴史的研究は、人間活動と自然環境の関係性を再構築しようとする今日的課題に対して、歴史学・民俗学の研究成果を接続し得る点においても意義があると考えられ、今後はそうした方面への努力も試みていきたいと考えている。
(文責:須崎文代)
2021年度の活動
- 第7回公開研究会「農書にみる便所の構築と民俗-『会津農書』を中心に-」佐々木長生(客員研究員 元福島県立博物館 専門学芸員)2021年8月28日 オンライン開催
- 第8回公開研究会「1930年代の男鹿寒風山麓における畑作農民の人糞尿利用に関する生態人類学的再発見-アチック学派の社会的事実」全京秀(客員研究員 ベトナム デュイ・タン大学外国語学部長ソウル大学名誉教授 人類学者)2021年11月12日 オンライン開催
- 沖縄伝統的ふーるの現存遺構および関連資料調査 2021年12月17日・18日 おきなわワールド旧知念家住宅、重要文化財中村家住宅ふーる等 須崎文代・泉水英計・髙田晃