基幹共同研究「常民生活誌に関する総合的研究」—便所の歴史・民俗に関する総合的研究—
第1回 共同研究「便所の歴史・民俗に関する総合的研究」公開研究会終了報告
厠と厠神をめぐる民俗学的研究の課題
飯島吉晴氏(元天理大学 教授)
日時:2019年7月18日(木)16:00~18:00
場所:横浜キャンパス9号館11室(日本常民文化研究所)
世界各地では生活文化の多様性とともに様々な便所の歴史や排泄にまつわる風習、思想を有している。各時代・地域特有の便所空間と設備、糞尿処理と営農の問題、あるいは衛生観や穢れの思想は、人間生活の非常に興味深い一側面を表しているといえる。便所や排泄という行為が「身体性」に深くかかわるものであるが故に、日常の営みと切り離せない行為だからである。こうした便所と糞尿にまつわる歴史・民俗的研究の射程について、本年3月中国・広州で行われた国際フォーラム「厠所革命」では以下のように提言を行った(注1)。
—便所史論の射程—
・便所(空間)、便器(設備・装置・民具)の形態、機能
・衛生(時代と共に思想や政策が変化)、下水と疾病対策
・身体性(身体技法と便所の形態、しゃがみ式・椅子式、しゃがむ方向)
・「臭い」と清潔感、プライバシーの意識
・穢れ、畏怖の意識/信仰(烏枢沙摩明王など)/便所の妖怪(図3)
・風水・家相
・糞尿処理、農業における堆肥利用
・地質と人間生活(人新世 アントロポセン)糞は土をつくる。
本共同研究でも、このような多角的視座から各分野の碩学や若手研究者を招いて研究会を開催し、知見を束ねていく予定である。
今回の第1回公開研究会は、日本の厠にまつわる民俗学研的究の第一人者である飯島吉晴氏(元天理大学教授)を講師に招いて実施した。飯島氏による講演は「厠と厠神をめぐる民俗学的研究の課題」をテーマとして、氏の専門である「厠神」への知見を中心に、上記の視点を包含した便所の民俗学的研究の現況と今後取り組まれるべき課題について論じられた。具体的には、便所の歴史を概観し、便器と排泄の形式や姿勢にふれつつ、厠にまつわる信仰と習俗、妖怪とくに河童との関係性について講じられ、参加者の関心を強く引き付けた。
今後は、上記国際フォーラムのパネルで中国の便所革命について講演された周星先生(愛知大学)、糞の人類史的研究の第一人者である全京秀先生(ソウル大学)、歴史地理学の観点から糞・野菜の交換を通じた都市-農村の関係をご専門とする古田悦造先生(学芸大学)、近代のコンクリート造の衛生設備にも詳しい角南聡一郎先生(元興寺文化財研究所)などをお招きする予定である。
注
(1)須崎文代「東方学研究国際フォーラム「厠所(便所)革命」於 広東外語外貿大学(中国広州)に参加して—共同研究「便所の歴史・民俗に関する総合的研究」に向けて」『民具マンスリー』52巻3号(2019.6)
(文責:須崎文代)
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