神奈川大学日本常民文化研究所

調査と研究

基盤共同研究 日本常民文化研究所所蔵資料からみるフィールド・サイエンスの史的展開

第12回公開研究会 終了報告

「岩倉市郎の喜界島調査—その表と裏—」
전경수(全京秀)氏
(ソウル大学名誉教授・日本常民文化研究所客員研究員)

日程:2023年7月27日(木) 15:00~17:00
会場:横浜キャンパス9号館12室 (日本常民文化研究所)(オンライン併用)

全京秀氏
岩倉市郎および拵嘉一郎の作品

 渋沢敬三は、社会的事実を収集する方法論としてエスノグラフィーを積極的に取り入れた。全京秀氏は、そのようなエスノグラフィーとして、以前に取り上げた吉田三郎による男鹿の調査報告につづき、このたびは、岩倉市郎(1904-1943)の薩南諸島の調査報告を取り上げ、直近の現地調査も含めてその成果を報告した。岩倉は1935年冬から1937年春に喜界島を中心に調査を進め、同島出身の教え子であった拵(こしらえ)嘉一郎(1914-)が調査助手を務めた。一連の報告の精読により、全氏は、米食の欠如やムヤ(共同風葬墓)に関する慣行の記述に奇異な不足があることを見いだす。同氏によれば、近代化という名の文化的画一化の圧力を感じていた岩倉や拵が故意に情報を脱落させた可能性を示した。これにたいし参加者からは、琉球諸島の慣習および歴史的経験とのさらなる比較の必要が指摘された。そのほか、親族組織の名称をめぐる問題や女性の役割に関する問題、豊富な現地調査経験からのコメントなど、予定時間まで活発な質疑応答があった。

(文責:泉水英計)