基盤共同研究 日本常民文化研究所所蔵資料からみるフィールド・サイエンスの史的展開
台湾でのワークショップ(パイワン学:歴史工作坊)参加
日程:2018年10月26日(金)〜10月29日(月)
訪問先:屏東県三地門郷大社パリラヤン村(台湾)
参加者:泉水英計、高城玲
日本常民文化研究所では、アチックミューゼアム同人が、主に1930年代を中心とする調査旅行などの際に撮影した動画フィルムと写真を所蔵している。その中に、1937(昭和12)年に撮影された台湾南部の山地に居住するパイワン族に関する映像資料が含まれている。
参加したワークショップ「パイワン学」は、パイワン族自らが主体となって、その居住地域で開催されたもので、今回が第4回目にあたるという。特に今回は、1999年の豪雨被害でパイワン族の村全体が山麓に移住させられながら、いまだ数世帯のみが居住し続けている山地の村(屏東県三地門郷大社パリラヤン村)で開催された。
2日間にわたるワークショップでは、文献研究とフィールド調査の対話を全体テーマとしながら多彩な研究報告や活発な議論が行われた。日本からは中生勝美氏(桜美林大学)が、日本統治時代にパイワン族の村に住まい絵画を描き、工芸を指導しながら同族の調査を行った小林保祥氏に関する報告を行った。小林氏が当時描いたパイワン族の絵画は、白黒写真でのみ記録が残されている当時の状況を、鮮やかな色づけで表現しており、現在の現地住民の大きな関心を呼んでいた。
同様に、常民研が所蔵する1937(昭和12)年撮影の動画フィルム「台湾高雄州潮州郡下パイワン族の採訪記錄」に関しても、当時の風景が身体動作をともなって記録されており、集まった研究者や現地住民から多くの感嘆の声を聞くことができた。
他に、近年刊行されたパイワン族村落のモノグラフ研究に対する現地住民の視点を含めた書評討論のセッションでは、頭目の家系に属する男性がパイワンの言葉で熱弁をふるい、パイワンの歴史を自らが自らの言葉で記述する必要性を訴えかけていた姿が印象的だった。
今回のワークショップでは、フィールドサイエンスの史的展開を考えるにあたって、残された史資料、映像資料を基盤にしながら、当時の研究者側の学史的展開や視座を検討することに加えて、研究対象となった現地の人々やコミュニティの側からの視点や現在の状況も合わせて究明していくことの重要性を考えさせられる機会となった。
(文責:高城玲)