基盤共同研究 日本常民文化研究所所蔵の川田順造文書を用いた 西アフリカ史・人類学史に関する基礎的研究
終了報告 共催研究会
「人類学の歴史学に対する貢献—川田順造の仕事をどう受け継ぐか」
日時:2025年11月29日(土)15:00-18:00
会場:横浜キャンパス9号館12室(日本常民文化研究所)
主催:基盤共同研究「日本常民文化研究所所蔵の川田順造文書を用いた西アフリカ史・人類学史に関する基礎的研究」
共催:科研費・若手「「情報提供者」からみたアフリカ史研究史:ローカルな知識人と研究者の邂逅と知の流通」(23K12290)
【プログラム】
趣旨説明:原聖(女子美術大学)
中尾世治(京都大学)
「日本語での思考と諸学の「はみ出し」方:
川田順造を起点とした「かかわりあい」からみた社会史」
小綿哲(京都大学)
「日本の歴史学にとっての川田順造」
原聖(女子美術大学)
「西欧における国家横断的貴族社会の成立と近代国家への影響—言語移転から考える」
総合討論
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研究会当日の様子
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日本常民文化研究所・基盤共同研究「日本常民文化研究所所蔵の川田順造文書を用いた西アフリカ史・人類学史に関する基礎的研究」主催、科研費・若手「「情報提供者」からみたアフリカ史研究史:ローカルな知識人と研究者の邂逅と知の流通」共催の「人類学の歴史学に対する貢献—川田順造の仕事をどう受け継ぐか」と題した研究会を2025年11月29日に日本常民文化研究所において公開で開催した。
この研究会では、川田順造が編集同人のひとりとして参与した『社会史研究』、そして、同誌の同じく編集同人のひとりであった二宮宏之、さらに川田と二宮が中核的に進めていた共同研究「ヨーロッパの基層文化」に焦点をあて、1970年代後半以降に生じた人類学と歴史学の影響関係とその可能性について議論することを主眼とした。
まず、中尾が「日本語での思考と諸学の「はみ出し」方:川田順造を起点とした「かかわりあい」からみた社会史」というタイトルで発表をおこなった。この発表では、日本常民文化研究所所蔵の川田順造資料に含まれる研究会資料や川田の手帳などを用いて、『社会史研究』の編集同人であった、阿部謹也、川田順造、二宮宏之、良知力、さらに『社会史研究』の常連寄稿者であった網野善彦に焦点をあて、彼らが岩波書店『思想』編集部、平凡社での研究会を介してつながり、分野を超えた交流を密におこなっていくなかで、『社会史研究』が成立していったことを明らかにした。そのうえで、『社会史研究』では、史料論を中心として、のちに必ずしも体系化されなかった「未完」の構想が示されていたこと、蓮實重彦や坂部恵といった文学や哲学によるテクストにおける固有名の機能や構造的(建築的)解釈学などの新たな史料読解の可能性が示されていたことなどを指摘した。
つづく、小綿による発表「日本の歴史学にとっての川田順造」では、川田と二宮の学問形成の過程を対照させながら読み、両者の共鳴関係を明らかにしていった。川田の読解では、初期の代表作のひとつである『無文字社会の歴史』について、そのもととなった『思想』の連載時期を踏まえて、連載の後半において、近代批判やフランスでの知の新植民地主義批判が展開されていることを指摘した。他方で、二宮の読解では、二宮の学生運動への言及を踏まえつつ、特に印紙税一揆についての論文を転機として、権力論を組み込んだかたちへの社会史の構想が展開されていったことを辿った。そのうえで、川田と二宮の両者が、近代を前提として成立している現代世界への批判意識を共有しており、社会史と呼ばれた研究群においても、その批判意識への共鳴があったことを指摘し、1980年代後半以降の川田と二宮が異なるかたちではありつつも共通して、歴史学における物語理論や言語論的転回と向かい合っていったことを述べた。
最後の原による発表「西欧における国家横断的貴族社会の成立と近代国家への影響—言語移転から考える」は、川田の議論を具体的な事象とともに展開しようとする試みであった。川田は編著『ヨーロッパの基層文化』の序論で、ノルマンの征服王ウィリアムの血統が現在のヨーロッパ王族のほぼ全体にまで広く受け継がれていることを指摘しつつ、近代ヨーロッパは民主主義や人権を生んだ一方で、王や王族を好み、世界で最も多く君主制を残している地域でもあることを指摘した。この指摘を踏まえて、原は言語移転に着目しつつ、1066年のノルマン征服のインパクトをイングランドにおける封建制の確立と、指導層によるフランス語の公用語化を決定づけ、国家の枠を超えた貴族文化の基盤を形成し、「ヨーロッパの基層文化」となっていったものと論じた。原による発表は、川田によって提起された問題系を具体的に展開したものとして位置づけられる。
研究会には学内外から研究者や大学院生、一般市民が参加し、質疑応答も多岐にわたり、きわめて白熱したものとなった。かつての「社会史」を今日の問題意識のなかでどのように捉え直すべきか、歴史学と人類学はいかにしてポストコロニアル研究を踏まえつつ新たな展開を切り開けるのか、さらに川田と網野が共通して関心を寄せてきた非文字資料を捉える理論的枠組はいかなるものか──こうした大きな問いが次々と浮かび上がる、きわめて刺激的な議論が展開された。川田順造と社会史との関係をあらためて照射し、そこからより広い問題圏へと踏み出す、実り豊かな研究会であった。
(文責:中尾世治)
※本研究はJSPS科研費課題番号23K12290の助成を受けたものです。


