基盤共同研究 日本常民文化研究所所蔵の川田順造文書を用いた 西アフリカ史・人類学史に関する基礎的研究
終了報告 第2回 共催研究会
「人類学の歴史学に対する貢献—川田順造の仕事をどう受け継ぐか」
日時:2026年7月4日(土)14:00~17:00
会場:横浜キャンパス9号館12室(日本常民文化研究所)
主催:基盤共同研究「日本常民文化研究所所蔵の川田順造文書を用いた西アフリカ史・人類学史に関する基礎的研究」
共催:科研費・若手「「情報提供者」からみたアフリカ史研究史:ローカルな知識人と研究者の邂逅と知の流通」(23K12290)
【プログラム】
○趣旨説明:原聖(女子美術大学)
○陣内秀信(法政大学)
「人力から機械力への展開ー水車を用いたプロトインダストリアル時代の都市の産業活動」
○松本彰(新潟大学)
「ヨーロッパの王族、名家……そして黒人—ロンドン(イギリス)とハノーファー、コーブルク、ハレ(ドイツ)—」
○原聖(女子美術大学)
「科研不採択研究「欧州「近代」形成にとってのアルス(芸術・科学・技術)、その分化の意味を問い直す」について」
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研究会当日の様子
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日本常民文化研究所・基盤共同研究「日本常民文化研究所所蔵の川田順造文書を用いた西アフリカ史・人類学史に関する基礎的研究」主催、科研費・若手「「情報提供者」からみたアフリカ史研究史:ローカルな知識人と研究者の邂逅と知の流通」共催の「人類学の歴史学に対する貢献—川田順造の仕事をどう受け継ぐか」と題した第2回研究会を2026年7月4日に日本常民文化研究所において公開で開催した。
この研究会は、川田順造を代表者として実施された、国立民族学博物館・共同研究「ヨーロッパ基層文化の研究」(1991-1995年度)および、その成果論集である『ヨーロッパの基層文化』(川田順造編、1995年、岩波書店)で展開された、いくつかの研究主題を現在の観点からふたたび論じなおすことを主題とした。
まず、陣内秀信の「人力から機械力への展開─水車を用いたプロトインダストリアル時代の都市の産業活動」では、ヨーロッパと日本の事例を通じて水力エネルギーが果たしてきた歴史的役割の重要性を論じた。イタリアのボローニャの撚糸技術とその伝播、またイタリアのコモ、日本の玉川上水周辺の水車利用が内陸部の地域経済と水環境を支えていたことを示す一方、近代化により生産が沿岸部へ移り効率偏重となっていったことを明らかにした。こうした研究は、もともとはローカルなものとして形成された「ヨーロッパ近代」を相対化しつつ、いかに「グローバルなもの」へと拡張したのかという点を問い直そうとした、川田の西欧中心主義批判に連なるものである。
つぎに、松本彰の「ヨーロッパの王族、名家……そして黒人—ロンドン(イギリス)とハノーファー、コーブルク、ハレ(ドイツ)」では、イギリスのハノーファー朝やヴィクトリア女王の時代から、ドイツ帝国の成立と崩壊、さらにはナチズムの台頭までの歴史的なプロセスを、国歌の変遷や芸術家たちの活動を通して、君主制と国民国家の形成過程として捉え直している。そのなかで、「聖マウリティウス」を図案化した、ドイツのコーブルクの紋章が、「黒人表象」としてあったことを示しつつ、その紋章がナチ時代に変更されたことを印象的に紹介した。この発表では、川田が問題としてきた、ヨーロッパに共通するものとしての王族、そして、「ヨーロッパ近代」のなかで形成されたナショナリズムがいかに絡み合いながら成立していったのかを、あらためて問い直すものである。
最後に、原聖の「科研不採択研究「欧州『近代』形成にとってのアルス(芸術・科学・技術)、その分化の意味を問い直す」について」では、川田順造を中心とする研究グループによるヨーロッパ文化研究の軌跡を明らかにした。具体的には、共同研究「ヨーロッパ基層文化の研究」(1991-1995年度)以後、二宮宏之を代表者とした科研費・基盤研究(A)「ヨーロッパの基層文化の研究—フランスを中心に」(1998-2000年度)が実施され、2001年度から川田が新たな科研費の申請を試みていたことを示した。そこでは、「成熟社会モデルとしてのヨーロッパ」、「欧州「近代」形成にとってのアルス(芸術・科学・技術)、その分化の意味を問い直す」といったことがテーマに挙げられていたことを当時の資料から明らかにした。また関連して実施されていたシンポジウム、講演会、親睦会を通じた知的交流の様子が紹介され、貴重な証言が提示された。
研究会の一連の発表と質疑を通して、「ヨーロッパ基層文化の研究」とそれ以降の川田順造の問題意識が浮かび上がることとなった。基盤共同研究では、日本の人類学やアフリカ研究のなかでの川田の位置づけを中心に論じてきたが、ヨーロッパ研究、特に歴史学との協働においても川田の果たした役割は大きいものであった。日本常民文化研究所に所蔵されている川田順造文書のなかには、科研費の申請書類なども含まれている。今回の研究会は、こうした申請書や計画書などといった、刊行される学術成果とは異なる史料から、新たに生じつつあった学問の動態を分析していく視座を与えるものとなった。
(文責:中尾世治)


