基盤共同研究 渋沢敬三に関する総合的研究
「第1回研究会の開催」(終了報告)
日程:2022年6月26日(日)10:00〜15:00
会場:神奈川大学みなとみらいキャンパス15032講堂(Zoomを併用したハイフレックス開催)
発表者:
丸山泰明 ハーモニアス・デヴェロープメントの仕掛けとしての文庫と出版
山本志乃 「文字を持つ伝承者」たち—田中梅治と林勘次郎
渋沢敬三に関する総合的研究の第1回研究会を開催した。開催方法はみなとみらいキャンパスの会場とZoomをつなぐハイフレックス方式である。
共同研究の初めての会合であったため、丸山の司会で各自が自己紹介をした後、丸山が共同研究の趣旨説明を行った。そして「ハーモニアスデヴェロープメントの仕掛けとしての出版と文庫」と題して、渋沢敬三と書物の関わりについて概観した。具体的には、学者としての著作、読書体験、アチック・ミューゼアムでの出版、岡茂雄などの編集者との関係、祭魚洞文庫の同時代的意味などについて述べた。加えて、銀行家・実業家としての情報の伝達・共有の促進による新たな価値の創造に取り組んだことについても視野を広げて考察し、書物というモノ/メディアから渋沢敬三を問う意味について論じた。
お昼の休憩を挟んで午後からは、山本志乃氏が「『文字をもつ伝承者』たち-田中梅治と林勘次郎」と題して、『粒々辛苦・流汗一滴』(アチックミューゼアム、昭和16(1941)年)の著者である田中梅治、および『瓦片録』(日本常民文化研究所にて昭和17(1942)年作成と昭和27(1952)年作成を所蔵)の著者である林勘次郎と渋沢敬三の交流について発表を行った。宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫、1984年)で述べられている「文字をもつ伝承者」を手がかりに、「文字を知り地域について考える新しいタイプの伝承者」として島根県の田中梅治と林勘次郎を位置づけて考察し、その上で『粒々辛苦・流汗一滴』がアチック・ミューゼアムから出版された経緯と、『瓦片録』が所蔵されるようになった経緯について考察した。
次いで、川島秀一氏が長年にわたって漁業の民俗学的研究を行ってきた視点、および現役の漁師である視点から、林勘次郎『瓦片録』の昭和17年作成と昭和27年作成を比較しながら読み解き、記述されている漁業の民俗の内容や、文体・表現に見られる著者の思考や書物という形態としてまとめた著者の考えについて報告した。
研究会は、時に鋭い質問やコメントを交わしながらも、終始なごやかな雰囲気で行われた。書物を通して農業や漁業などの地方の生活について考え、そして研究者のみならず地方に暮らす人々にとって書物はどのような意味をもっていたのを議論する、今後の共同研究の広がりを予感させる研究会となった。
(文責:丸山泰明)