基盤共同研究 渋沢敬三に関する総合的研究
林勘次郎著『瓦片録』に関する現地調査
日程:2022年8月25日(木)~8月28日(日)
調査先:島根大学附属図書館、浜田市立中央図書館、浜田市浜田郷土資料館
調査者:川島秀一、山本志乃
日本常民文化研究所所蔵の『瓦片録』は、島根県浜田浦の漁師林勘次郎が、当地の漁業や水産物の流通、漁師の生活などを記した自筆本で、昭和17(1942)年と昭和27(1952)年の2冊がある。同様の作品が島根大学附属図書館と浜田市立中央図書館にも所蔵されていることから、これらの所在確認および撮影等の調査を実施した。
島根大学附属図書館には、勘次郎の自筆本(昭和7<1932>年)と筆写本の2冊が所蔵されている。自筆本は、勘次郎が子息の求めに応じて執筆し、浜田の師範学校に寄贈した原本と思われるが、常民研所蔵本と異なり彩色はされていない。また筆写本は、石見の郷土史家・森脇太一が当地を訪れた渋沢に所望され、昭和17年に写したものと推測される。勘次郎は森脇からこの写本を見せられ、事情を聞いて、自ら複製を作って渋沢に送ったことを記している。
浜田市立中央図書館には、勘次郎自筆による『瓦片録』のほか、さまざまな魚種を描いた「海幸譜」をはじめ、「浜田地方方言訛語録」「茶製図絵」など複数の自筆本が所蔵されていた。『瓦片録』は昭和27年の作で、浜田出身の海洋学者・丸川久俊に校閲を依頼し、ところどころ赤字で修正が施されている。こうした推敲を経て、再度渋沢に清書本を寄贈したことが推測される。浜田市浜田郷土資料館には、漁具の展示解説に『瓦片録』の記述が使われており、地元でもその資料価値が高く評価されてきたことがうかがえる。一方で、勘次郎自身の情報はきわめて少なく、自宅跡や墓所などを確認することはできなかった。
この現地調査の成果は、12月に開催される第2回研究会において詳細を報告する予定である。
(文責:山本志乃)
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