基盤共同研究 日本常民文化研究所所蔵資料からみるフィールド・サイエンスの史的展開
共同研究「日本常民文化研究所所蔵資料からみるフィールド・サイエンスの史的展開」
第5回 公開研究会 終了報告
モンゴルに関するフィールド・サイエンスの黎明期
—みんぱく梅棹資料から探る—
小長谷有紀氏 人間文化研究機構・国立民族学博物館
日時:2018年1月12日(金)16:00~18:00
会場:神奈川大学日本常民文化研究所
梅棹忠夫(1920-2010)は、文化人類学の研究拠点・国立民族学博物館の初代館長であるが、ひろく日本の読書人に影響を与えた戦後日本を代表する知識人としても知られている。『文明の生態史観』や『知的生産の技術』といった彼の著名な作品の出発点となったのは、戦中の張家口に設立された西北研究所の組織したモンゴル調査隊であった。現在の内モンゴル自治区を縦断する研究所員たちの調査行は、自然環境と文化は並行して変化するという現象を観察し、梅棹は後の西南アジアの踏査を経てこの観察を文明論へと結実させる。一方で、モンゴルでの共同調査中には詳細にわたる記録が取られ、膨大な資料を整理する過程で梅棹の独特の情報処理方法が編み出される。宿営地や調査対象世帯、調査者といった情報を記号にしてフィールド・ノートに付し、最終的には、約5,000枚のローマ字カードから成る「データベース」がつくられた。小長谷有紀氏の講演はこのような経緯を、自身の追跡調査の資料を加えつつ明解に跡づけた。小長谷氏はモンゴル研究者として、はやくから梅棹資料に注目し、梅棹氏の没後には「ウメサオタダオ展」(2011年3月~6月、民族学博物館)を企画・運営して梅棹氏の業績をひろく一般に紹介し、また、フィールド・ノートやローマ字カードを出版し、その業績を研究者コミュニティの共有財産にしている。
(文責:泉水英計)