神奈川大学日本常民文化研究所

調査と研究

研究拠点 気仙沼大島漁協文庫の管理と活用

第4回漁業史文庫を語る会「米と日本文化—"福田(ふくでん)"行事を中心に—」終了報告

日程:2019年12月21日(土)13:30~16:00、12月22日(日)
会場・調査先:宮城県気仙沼大島 大島公民館(2階会議室)、大島漁協文庫
参加者:佐野賢治・窪田涼子、小野寺佑紀・中村慧(院生)

  • 会場風景(大島公民館2階会議室)
  • 東北地方特有の“福田”行事を紹介する佐野

 第4回漁業史文庫を語る会が2019年12月21日(土)午後1時半から4時まで大島公民館2階会議室で開かれ、年末の多忙な時期にもかかわらず、大島漁協文庫の会の千葉勝衛会長はじめ30余名の熱心な島民が来所、聴講した。地元の気仙沼・大島みらい創り協議会(代表・堺健氏)が開催準備や進行の世話役となり、気仙沼市、大島地区振興協議会、崎浜美和会が協力、また、河北新報社の記者も取材に訪れていた。
 司会は地元大島出身の小野寺佑紀氏(本学歴史民俗資料学研究科博士課程在学)が務め、堺健氏からまず、東日本大震災からの復興の現状と課題、大島大橋の架橋後(2019年4月)の島の将来を考えるにあたって、島の歴史と民俗を学ぶことの重要性が開催趣旨として述べられた。
 次いで、福島県いわき市出身の山崎祐子氏(民俗学者・俳人)が「食がつなぐ未来」と題し、自身が携わっている復興ツアーなどの活動について紹介、放射能汚染や風評被害の問題も含めながら、当地と福島県沿岸部の復興活動を「郷土食」を事例に比較しつつ、地域間の情報の共有化の必要性を説かれた。その上で、在来種である「大島カブ」の見直し、再評価が、地域の活性化に繫がると地元島民への期待を述べられた。
 続いて、佐野賢治が「米と日本文化—"福田(ふくでん)"行事を中心に—」と題し、従来、縄文文化の系譜をひく地であると語られてきた東北地方を水田稲作の波及と仏教土着化の視点から日本、アジア文化の中で見直す話題の提供を行った。仙北地方では「お福田」行事が作神信仰や伊勢参りに関係して小正月中心に行われ、その折供えられる餠を福田餠といい、強調されることが多かった事例を糸口にその背景を論じた。大島の歴史民俗を漁業史方面ではなく、広く日本文化の中で位置づける発表となった。質疑応答の中でも、戦前まで大島でも正月に福田餠を搗き、供える習俗があったとの発言があり、島における農耕儀礼、年中行事に注目することも大事だとのとの意見が聞かれた。次の機会には、当地にも祀られるウンナン様(鰻神)を題材に柳田国男の『海上の道』ならぬ「鰻の道」とでも題し、日本の民俗文化の形成について話すことを約束して講演を終えた。
 今回は、大震災被災者の移転先における交流促進を目的とする気仙沼市コミュニティ再生支援事
業の助成も受けての実施だったが、会後の座談で、日本常民文化研究所の調査研究の蓄積が地域振
興における基礎資料として役立っていることを聴きうれしかった。翌日は、漁協文庫の整理作業、
関係者への挨拶・目録手渡し等を済ませ日程を終えた。

(文責:佐野賢治)