研究拠点 気仙沼大島漁協文庫の管理と活用
2018年度 大島漁協文庫資料整理プロジェクトの動向
気仙沼大島の漁業協同組合は、1903年に大島村漁業組合として設立、2006年に宮城県漁業協同組合気仙沼地区支所大島出張所に改組され、現在に至っている。1世紀以上にわたるその歴史は、千葉勝衛氏らの努力で『大島漁業組合百年史』(2006年刊行)としてまとめられている。同書編纂のさいに使用された明治以来の関係資料は、当時、沿岸の浦の浜にあった漁協事務所2階の専用書架に、きちんと整理、収納されていた。そこに「大島漁業組合資料文庫」と書かれた木製の看板が掛けられたのは、2011年3月11日の東日本大震災の1週間ほど前のことだったという。
日本常民文化研究所と気仙沼大島とのかかわりは古く、その始まりは常民研が財団法人だった時代の1949年にまでさかのぼる。常民研では2011年の4月末に現地を見舞い、同年5月以降、神奈川大学からの支援を受けて、常民研と大学院歴史民俗資料学研究科の合同プロジェクトとして、大島漁業協同組合資料文庫と漁協現用文書の救出と保全を進めてきた。そして、2016年2月には、大向(おおむかい)の丘の上に収蔵庫「気仙沼大島漁協文庫」を落成するにいたった(ここまでの経緯の詳細は2014~15年度の神奈川大学日本常民文化研究所年報を参照されたい)。その間、宮城県漁業協同組合気仙沼地区支所大島出張所はもとより、千葉勝衛氏、水上忠夫氏をはじめとする地元の個人・諸機関、宮城資料ネットワーク、奈良文化財研究所、三井物産環境基金などから、さまざまなご協力をいただいた。
2018年度の課題は、「気仙沼大島漁協文庫」の収蔵資料の整理を完成し、広く公開できるようにするとともに、散逸と劣化を防ぐ手立てを講じることであった。以下は2018年度の活動概要である。
2018年6月20日の所員会議において、大島漁協文庫にかんする情報共有がはかられ、7月15~17日には数名の所員・職員で現状の視察が行われた。これを受けて、9月19日の所員会議では、漁協文庫資料を公開できるよう整理等の作業を進めることを決定、内田青蔵所長(当時)が大川啓・関口博巨(以上、所員)・窪田涼子(職員)に実施計画の策定を指示するとともに、山口悟史氏(客員研究員、東京大学史料編纂所古文書修理室)にも参画を要請した。
こうした経緯を経て、2018年度後半期は、国際常民文化研究機構の共同研究(奨励)「宮城県気仙沼大島における遠洋漁業の歴史的変遷に関する研究」(代表者:千葉勝衛)のフォーラム(2019年2月10日)までに、文庫収蔵資料の整理作業を完了することを目標として、毎月1回3泊4日~2泊3日の出張を重ねてきた(2018年11月2日~5日、11月30日~12月3日、2019年1月11日~15日、2月8~11日、3月23日〜25日)。実際の整理作業にあたっては、山口氏と若くて優秀な歴史民俗資料学研究科博士課程の院生精鋭部隊が大きな推進力となってくれた。精鋭部隊を構成したのは、石井和帆、小野寺佑紀、中村慧、鍋田尚子、平田茉莉子、東出紘明、山室陸の諸氏である。ことに地元大島出身の小野寺氏には、作業チームと地元をつなぐパイプ役として、またシンポジウムの研究発表者として、八面六臂の大活躍をした。シンポジウム期間中には、資料整理の最終段階を公開した。
文庫での作業内容は以下の通りである。
(1)作業手順
スリットの確認→ラベル貼付→目録修正
①作業は「中分類」単位で終了させていく。千葉氏作成の分類表による。
②資料にはレスキューのさいのスリット(短冊)が入っているので、スリットを仮目録と照合、確認する。
③正確に分類されているか、棚の配下位置は間違いないかなどを確認したうえで、ラベルを貼付する。
④分類や配架位置などが誤っている場合は、正しい分類番号を付し、目録データを修正したうえで、配架位置を変更する。
⑤スリットが脱落している場合は、目録データと照合し、正確な分類を確定したうえで上記の作業を行う。
⑥未整理・未分類の資料が出てきた場合は、分類表に基づいて分類番号を与え、目録作成したうえでデータに追加し、上記の作業を行う。
(2)ラベル
3段の図書ラベルサイズとし、以下の内容とする。
・貼り付け位置は、原則として表紙右下とする。
・ラベル用紙:特種東海製紙株式会社 [ピュアガード 70ホワイト 70g/㎡]
・糊:水溶性セルロース(信越化学工業 SM-400)溶液(濃度など調整して使用)
(3)データ修正
①目録データ(Excel)を現物と照合(タイトル・分類)し、場合によって修正する。
②ラベルを貼付し確定した「中分類通番号」を新たに入力する。
(4)修復関係
①ホチキス・クリップ等の除去。
②必要に応じて紙縒りで綴じたり、中性紙製の厚紙ホルダーに収納する。
※カビ資料などは来年度以降の課題とする。
上記の作業は、2019年2月の出張までにほぼ完了することができた(ただし、個人情報を含む資料は、当面非公開として別置し、今回の作業に含まなかった)。これによって、「大島漁協文庫」の公開準備はほぼ整ったといえよう。
今後、「大島漁協文庫」が、漁協の皆様はもとより、地域の方々のさまざまな活動、学校の授業やその他の教育活動、あるいは各種研究などに活用されることを期待したい。
(文責:関口博巨)
○気仙沼大島漁協文庫の資料整理 2018年7月15日~17日 気仙沼大島漁協文庫
内田青蔵・小熊誠・関口博巨・重村力・山口悟史・窪田涼子、小野寺佑紀(院生)
大川啓・関口博巨・山口悟史・窪田涼子、石井和帆・小野寺佑紀・中村慧・平田茉莉子・山室陸・東出紘明(院生)
関口博巨・山口悟史・窪田涼子、石井和帆・小野寺佑紀・中村慧・鍋田尚子・東出紘明・平田茉莉子・山室陸(院生)
大川啓・関口博巨・前田禎彦・山口悟史・窪田涼子
石井和帆・中村慧・鍋田尚子・東出紘明・平田茉莉子・山室陸(院生)
気仙沼大島漁協文庫 小熊誠・昆政明・佐野賢治・後田多敦・須崎文代・高城玲・安室知・重村力・全京秀・森武麿・村川浩幸・越智信也
関口博巨・山口悟史・窪田涼子、石井和帆・中村慧・東出紘明・平田茉莉子・山室陸(院生)
関口博巨・山口悟史・窪田涼子、石井和帆・小野寺佑紀・中村慧・平田茉莉子・山室陸(院生)