神奈川大学日本常民文化研究所

調査と研究

基盤共同研究 渋沢敬三に関する総合的研究

第2回研究会終了報告

日程:2022年12月11日(日)10:30〜16:00
会場:神奈川大学みなとみらいキャンパス15032教室 Zoom同時開催
発表者:
山本志乃・川島秀一「林勘次郎と『瓦片録』—島根県の調査から」
丸山泰明「旅から書物へ」

ハイフレックスで開催された研究会

 第2回研究会を神奈川大学みなとみらいキャンパスにて開催した。
 最初に、山本志乃と川島秀一が、島根県浜田浦(現在の浜田市)の漁師だった林勘次郎が浜田浦の漁業や水産などについてまとめた書物である『瓦片録』について、8月に現地にて調査を行なった成果に基づきながら発表をした。島根大学附属図書館所蔵の自筆本および筆写本、そして浜田市立中央図書館所蔵の自筆本などを比較検討することにより、記述・挿絵といった内容だけではなく、書き込みなども含めたモノとしての書物のありようにも着目し、林勘次郎が何に着目しどのように書き、そして読まれ、所蔵されたのかについて検討した。さらには漁師が自分たちの生業を自分で書いていたことについて、漁師の読み書き・図像化する力の問題や、自民俗誌の問題にまで射程を延ばして議論した。
 次に丸山泰明が、「旅から書物へ」と題して、渋沢敬三がどの旅の経験をどのような媒体にどのような文体で書いてきたのかについて発表した。渋沢は生涯にわたって国内および世界各地を旅しているが、すべての旅について書いているわけでない。また文体も、科学的報告の文体、手紙の文体、紀行文の文体に分類することができる。1930年代以降に民俗学や文化人類学において旅の経験を客観的な文体て記述する民俗誌/民族誌が勃興していく中で、渋沢は一方では他の研究者が書いた民俗誌/民族誌の出版を支援しながらも、自らは学問の枠組みにとらわれない文体で記述し続けたことについて考察した。

(文責:丸山泰明)