神奈川大学日本常民文化研究所

調査と研究

基盤共同研究 日本常民文化研究所所蔵の筆写稿本・古文書・絵図を用いた若狭湾沿岸海村とその周辺村落の生業をめぐる軋轢・交流・交易に関する研究

「返却されなかった(?!)古文書の調査」

日程:2024年11月30日(土)10:00~16:30
調査先:日本常民文化研究所
調査者:長谷川裕子・大河内勇介・黒滝香奈・小林一岳・春田直紀
 櫻井彦(宮内庁書陵部図書課)・曽根由圭(歴史学研究会)
 井上泰良(滋賀県立大学大学院修士課程)
 越智信也・窪田涼子・平田茉莉子(常民研職員)

  • 筆写稿本・未返却古文書の調査風景
  • 「寛延2年(1749)7月12日 覚」
  • 「文化8年(1811)3月 請取申一札之事」

 共同研究の調査対象地域である若狭湾沿岸地域に関する史資料収集を、昨年度に引き続き2024年11月30日(土)に日本常民文化研究所において実施した。調査は、①常民研所蔵の筆写稿本ついて、『福井県史』や『小浜市史』編纂時に作成された目録等で確認しながら未収載・未確認の古文書を発掘していく作業と、②同じく常民研所蔵の『漁業制度史料目録』として3冊作成されたうち、『漁村制度史料』、『福井・海村史料の形態学的研究史料』の写真撮影作業の2本立てで行った。特に、①の作業は、「漁業制度資料調査保存事業」段階では確認されていた古文書が、自治体史編纂時期までに散逸してしまったと考えられるため、未発見文書が確認される可能性が高く、実際に今回の調査によって江戸時代の古文書についてはいくつか未収載文書を確認することができた。
 また、追加の調査として、常民研に残されていた「松吉五郎兵衛家文書」3点について、写真撮影を行った上で、自治体史収載状況や未返却となった経緯について調査・検討した。その結果、①「松吉五郎兵衛家文書」は、1950年8月17日に常民研に到着し、1951年1月31日に返却予定だったが、実際に筆写稿本が作成されたのは1951年9月で、所蔵者に返却されたのは1951年10月だったこと、②このうち常民研に残されたまま未返却となっている古文書3点は、『漁業制度史料目録』には収載されているが、筆写稿本には収載されていないことから、目録作成から筆写稿本作成までの間にその3点だけが、何らかの事情で本文書群から離れてしまったこと、③文書を借り受けたときの封筒やカードには「松谷五郎兵衛家文書」と記載されていたため、時を経て本来の所蔵者が分からなくなってしまい、現在まで返却されずに残ってしまったこと、④1980年に刊行された『小浜市史』には本文書群すべてが「イマ原本ガ見出セナイタメ、日本常民文化研究所ノ筆写本ニヨリ収録」と記されていること、が確認された。今後は、本文書の返却に向けて調査を進めるとともに、より注意深く筆写稿本・漁業制度史料目録の調査を続けていく予定である。

(文責:長谷川裕子)